「おおーい 無事かー!?」



 髪をぐしゃぐしゃと引っ掻き回されて、それでも嬉しそうにしていたアレンの顔が時間の経過と共に 照れくささのせいで赤く染まってきた頃だ。 聞き覚えある声が焦るように叫ぶと、ヴンと昇降機(エレベーター)が回路を唸らせて現れる。



「室長!」
「…お、たくさんいるな」



逆四角錘の乗り物に一部の科学班員たちが乗り込んでいた。 リーバーとがハッと気付いたように声を上げると、ジョニーを始めとした彼らが次々と口を開く。


「班長ぉっ! 早くこっちへ!」
「あ アレンとトマも帰ってたの?こっち来い早く…」
「 たまにはくんのことも思い出してあげてください」
「へ !? あっ…ごめん小さくて見えなかった…
「ねえオレそろそろ泣く「リナリィ――まだスリムかい――――!?」
「…お前ら全員嫌いだぁー!!!」

「落ち着けお前ら…」



必死な様子でこちら側の人間を救おうとしている彼らに、リーバーは呆れつつもほっとどこか安心したような表情を作った。


「リーバー、」
「ん?」
「ちょっとリナリー…代わってくれ。 お前のほうが安全だと思う」
「(?) お、おう。」


 一瞬 の発言に理解できないところがあったのか、リーバーはきょとんと眉を寄せたがそれも束の間、の言葉の通りにリナリーを抱え、少しでも彼らを安心させるようにとジョニーたちへ声を掛けた。「今、そっち行くからな!」 ――科学班員たちからそれぞれ、安堵の歓声が零れる。



「さて。  …班長 落ち着いて」



 泣く、と言ってる割には怒り心頭な様子のの背中を、がぽんぽんと宥めるように叩く。


「だっておま 見えないって おま …、? あれ、リナリーは」
「リーバーに。 あっちの方が安全なので」
「…安全?」


母親が子供にするように背中を一定のリズムで叩いていたの手が、そのの疑問の声と共にぴたりと止まった。 あれ、なんか嫌な予感がするな。 が額にたらりと冷や汗を浮かべ考えたことは、恐らく間違ってはいなかっただろう。『これから何か自分に悪いことが起こる』、と。
 ――ぐいっ。彼女の体が浮上したことで、はああやっぱりな、と皮肉にも確信めいた思いを抱いての眼を見上げた。 「…お、オレは一人でも歩ける」 「そうですね」 「麻酔も食らっちゃいない」 「ええ」 「――この扱いはなんだ!」 「わかりませんか?」
 首を傾げ、にこっと優しく微笑んだ彼に周りがほうと見とれたひとつの刹那、


ドゴンッ



――盛大な音を立てて、今までどこかで足止めを食らっていた巨大な機体が壁を突き破り出現する。


「「「「来たぁ!!」」」」
「いやァァァァァァァ!!?」



 コムリンUのセンサーがピピピピと点滅を始める。恐らく標的(イノセンス)の波動でもサーチしてるんだろうなとが悠長に眺めている間に、コムリンは索敵処理が終わったのかグィィィンと首に当たる部分を稼働させ、あろうことか目的をリナリーではなくの腕の中の――に照らし合わせた。



… エクソシスト、」
「なん、なな、なんでオレ!?」
「コムリンのプログラムには確か適合者のケアサポートが入ってましたっけね」


過去のトラウマと不気味に光る赤いセンサーにがぎょっと驚き縮こまると、はそんなことを思い返したように説明しだす。「は、はい?」 そんなこと今関係あるの? 部下の発言に理解が示せないと言った風に彼女が眉間にしわを寄せると、「つまり」とは口を開いた。



「あんた、この中で一番…」
「エクソシスト強くする…」



二人の音声が重なって聞こえる。 コムリンの腕が戸の中から現れて、ほどなくの団服の襟をガシリと掴むのを周りの皆は固唾を呑んで見守っていた。 先ほどと打って変わって静かになった空間で誰も助けようと身動きすらしなかったのは、一人の堂々とした靴音を恐らく騒ぎの中心の一人と一機以外の全員が耳に捕らえていたからだろう。



「貧弱、なんです」



「マッチョに改良手術スベシ!」

「マッ…チョ………」


子供を言い聞かせるような笑顔で諭すと、とんでもないことを言いのけるコムリンに挟まれて、トラウマが爆発したは引き攣った顔のままくたりと意識を手放した。


ッッ…  、―――!!?」



堪えきれずアレンが彼女の名前を呼ぶと、ずるりとコムリンの手からが――いや、コムリンの手が地に落ちた。 それなりの重量を誇るそれが落ちたことで、煙がもうもうと立ち込める。「ゲホッ、」目に入った埃に自然と視界が歪むと、黒いコートを翻し不安定な足場を移動する、例の靴音の張本人――、神田ユウが、もと来た道へ戻ろうとこちらへ近づいてくるのがわかった。(ていうか)(いつの間にあんな所まで移動して…)


逃げられたぞジョニー!」
「プログラムはできてる!」
「科学班ナメんなよぉ!!」



「チッ、何の騒ぎだ」
「神田! 話は後です あいつを何とかしないと、」


エレベーターであちらもあちらの作戦を目論んでいることなどいざ知らず、こちらはこちらでとアレンは神田にあてもない要請を求める。 なんで俺がお前を手助けしなきゃいけないんだと今にも吐き捨てそうな彼の表情を見て、アレンはああ、と肩を竦めた。 やはり馬が合わない。 「…せめて弱点が、わかればいいんですけど」。 ちらりと神田を盗み見て言うと、黒髪のエクソシストは平然とした口調で言った。



「奴の弱点なら心得てる」
「え」
「かつて似たような奴を倒した事があるからな」
「どこですか!? 弱点って!」


 駄目元で聞き出したはずが少しだけ希望の光が見えてきたように思える。アレンは目を大きく見開き神田に勢い付きながら問い詰めた。 神田はというといつもながらの何ともなさそうな顔でを抱えなおし、


「盆の窪だな」
「盆の窪ですね…! て  どこですかそれ!!!
「フン 此処で朽ちるのもお前の運命だ…」



―――留めていた足を動かし、立ち去った。
アレンの背中からふつふつと黒い感情が見え隠れしている。「アレン!」「何ですか!!!」ほぼ八つ当たりに近い声で自分の名前を呼んだに返答をすると、昇降機の方から威勢のいい声とそれを泣き叫びながら静止する声とが聞こえる。



「「「壊れーーー!」」」
「ボクのコムリンを撃つなあ!!」

「―――気をつけろ! なんか、」


カチッ


「 来るッ!!」
「どわわわわっ!!!」



荷電粒子砲が逆四角錘の一辺から放たれる。 もしかしたらコムリンに荒らされた被害より甚大なんじゃと思うほどの射撃に思わずリーバーが吠えた。


「何してんだお前ら 殺す気か!?」
「ち 違っ …反逆者がいてっ」
「大丈夫か?」
「はい、すっすいませんさっきから…」


 頬のところどころにススを付けながら、は片手で抱きかかえていたアレンをぱっと放した。 「怪我がないならいいさ」 それより、と彼は頬を拭いながら騒がしくなってきた逆四角錐を見上げる。 砲台の先に、ぐすっと鼻を啜るコムイが縄に縛られ立っていた。 「コムリン…」呼んだ声に、ピピピとまたセンサーを稼働しながらコムリンUはコムイの前へと顔を伸ばす。

 

「アレンくんの対アクマ武器が損傷してるんだって。」
「…え"」
「治してあげなさい。」
「―――本当に大丈夫か?アレン」

「損…傷……。 優先順位設定!」
「…さん、あ、あのっ…」
「アレン・ウォーカー 重症ニヨリ最優先ニ処置スベシ!」

「やっぱり…、」


アレンが青褪めながら、しどろもどろに口を開く。 その様子をがじっと眺めていると、コムリンの『手術室』と書かれた扉からにょっと白い玩具のような手が伸びてきて、アレンの足がガッと掴みあっという間に入り口付近まで攫っていった。


ぎゃあああ! 何 あの入り口!!?」
「さあ リーバー班長! コムリンが餌に喰いついてる隙にリナリーをこっちへ!」
「あんたどこまで鬼畜なんだ!!」

「う…っ、」



連れ去られたアレンが恐々と見た『手術室』の中には、コムイを模したような楽しげなリズムを口ずさみ様々な獲物を各自携える――言うなればミニコムイ、が居た。
ぞっと怖気を感じたアレンが思わずイノセンスを発動させると、リーバーは研究者の血がこんな時といっても思わず疼きだしたのか、感動を露に歓声を上げる。


「おおっ新しい対アクマ武器!!」

「…ふにゅら?」
「  へ」



しゅん、と、砂糖の城が崩れるような音でアレンの発動が解ける。


「しびれる る」


その一声に、その場に居た全員が一瞬で加害者の当たりを付けた。





「室長ぉーっ!!!」
「吹き矢なんか持ってたぞ!」


しゃん…」
「 ――少し手荒な方法になるけど」
「…?」
「手伝ってやろうか? コムリン止め…、っ?」



 いつの間にかアレンの近くに居たが、いい加減疲れた様子でそう問い掛けている途中で、ぐ、と動きを止める。 ちょうど二人の方へ視線をやっていたリーバーが、その異変の原因をまたしてもアレだと理解し、ふらりと揺れたの身体に口端を引きつらせた彼の中で、何かがブチッと切れた。



「…室長アンタぁぁぁぁ!!!」
「だってコムリン壊れたらやだ―――!」
「大人になってください室長!」
「吹き矢はやく奪え「――痛い 」

「…え」


 もうとっくに痺れが回り地に伏しているだろうと、ほぼ全員が意識を緩めたの声を、リーバーを初めとした班員が聞いた。 近くに居たトマが驚いたように、針を摘んで顔を顰めているを凝視している。



「効くと思いましたか ――室長?」
っ…お前、…怒って「ねーよ。別に。」

「「「(めちゃくちゃ怒ってる!!!)」」」

「っくん待ってちょっと! ねっ!?」



 目がマジだ。
触らぬ神に祟りなしとでも踏んだのか段々に皆の口数が減っていく。 は収容されていくアレンと共に閉まる扉を無理矢理ガコンッと力尽くで押し広げると、中に居たミニコムイが「侵入者!侵入者!」と獲物のメスを構えたが、その切っ先が彼の米神を掠った瞬間にその一体はバギッ、と盛大な音を立てて根元から折れ、微かな入り口の間からカランカランと獲物を持っていた腕が転がった。


「内部…エラー……発生…」
「いちいち騒がしい奴だな」



 扉が閉まる直前、暗い『手術室』で最後に見えたのは弟分のアレンを腕に抱えるの不適な笑みと、



「――帰ってきたらお仕置きですからね。」


 という静かなお咎めだった。
誰に、とまでは明確に示さなかったが、間違いなく自分だと自覚している男が一人。 絶望したように膝をかくんと折り、呟く。



「…もうだめだ…」












アニメとシンクロさせてしまった/(^0^)\
盆の窪っていうのは弁慶の泣き所と同じような言い回しで、うなじの中央のへこんだ部分のことらしいです。さすが神田^^