「…あれ、行き止まり…?」 「 はァァァ!?」 マテールの地下通路は、本当に迷路とあらわすのが正しかった。 10分ほど前に、一本の狭い道を選んでここまで進んできたのだが、目の前には壁。 どうやらここは、はずれのようだ。 後ろから何かおかしな鼻歌 (いや、歌自体は上手いんだけど歌詞が…)を歌いながらついてきたは素っ頓狂な声をあげて、頭を抱えた。 「ノォォォ! 行 き 止 ま り !?」 「ちょ、あんまり大きい声出さないでくれます?響くから」 「道が無いなら作れ! それでも男か!」 「男ですけど何か問題でも?」 「ないです ごめんなさい」 僕を指をさして 文句を言ったに、とびきりの笑顔を見せながら言うと、彼女は土下座する勢いで謝った。(面白いなぁ)狭い通路の中、どうにか身体を反転させると、 顔を上げたに 戻りますよ と言って肩を叩く。すると彼女は『えぇー』と不満そうな声を零し、頬を膨らませた。 (えぇー、て貴女)(ここからどう進む気ですか…。) 「10分かけて 元の道戻るなんて …オレのプライドが許さない」 「…そんなおかしなプライド今すぐ捨ててしまえ。 ほかにどんな方法があるっていうんです?」 「( 恐ッ! ) え、いや…だから、アレンのイノセンスで壁をバコンと」 左手を横にヒュンと音たてて振るうに、はぁー、 と盛大な溜息を吐くと、 う、と彼女はなんともいえない顔をした。 (そういえばこの人、人の溜息に怯むんだっけ) 「こんな狭いところじゃ、腕、振れないでしょう?」 「 …!!! や、やっぱそうだよなー!ハハハハハ」 「…ハァ。 (この人 やっぱり変わってない…)」 顔を逸らしながら空笑いをするに、この人 絶対本気で言ったな…と呆れながらも、横にもある壁にペタリと触れてみる。地下のせいだろうか、ひやりとした岩の感覚が 肌を衝いた。 「…、戻りま…」 すよ、と 彼女の方を振り返って 声をかけかけたがもなにやら先程の僕のように、壁に右手をついていた。 疑問に思って暫く見ていると、彼女は壁から手を放し、右手で握りこぶしを作る。 え、それってもしかして、あの・・・貴女ホントにアホですか? 「、拳 割れます…」 「唸れオレの拳ィィィィ!!!」 「 …・・ (阿呆だ!本物の阿呆がここにいる!)」 ドン! の右手を押さえ込もうと、僕の右手を伸ばすと同時に、彼女の殴った壁が盛大な音を立てて崩れ落ちてゆく。 (…うわ)(もう少しで僕の右手も飛ぶところだった!) 「これ、ちょっと痛いから 使いたくないんだよなー」と彼女は僕のほうを向いてヘラヘラと笑った。 ( 久しぶりにが恐いと思った ) 「ちょっと って…あなた馬鹿ですか!」 「(馬鹿ぁ!?) カ ッ チ ィ ー ン …ちょっとオレ頭来たぞアレン」 「(ああもうそういうところも馬鹿なんだって)(今時カッチーンて!) …怪我は?」 『だいたいお前 昔は可愛げあったってのに…』、と酔っ払った人みたいにブツブツとくだを巻く の右手を柔らかく取ると、彼女は怪訝な顔で僕を見た。 「 ・・なに、心配してくれてんの」 にやにやと笑いながら問いかけてくるに、「黙ってください」と一蹴すると、かみ殺したような笑いが彼女の喉から洩れてくる。 何がおかしいっていうんだ。 の拳はどこを見ても 骨折も擦り傷も打撲も何の異変も無かった。 あるとすれば、いつもよりほんのりと、赤く染まっているくらいだ。(この人の体どうなってんだ、くそ) 「オレの心配なんていらないから。 ほれ 進むぞ」 「…それって もしかして、のイノセンスですか?」 今の彼女の一撃で開いた、人 1人くらいが軽く入れそうな穴をくぐりながらに問いかけると、「んー?」と間延びした返事が返ってくる。 「確かに右手にあるけどさ、イノセンス、今日はもう使えないんだよなぁ…多分」 「 はい?」 『使えない』、って? と再度問いかけると、は目線を空に散らせたあと、口を開いた。 「あー‥と、オレのイノセンス気まぐれでさ」 「気まぐれ?」 「そ、オレ 寄生型のクセに シンクロ率が低いから、アレンたちみたいにうまく操れないんだよ」 だからお前らに任せっきりになるかも、と不本意そうな他力本願が後ろから響く。その声になんとなく苦笑を零しながら、先程の道よりは多少広い道(と言っても立てないが)を進んでいく。 「…わかりました…、って…? じゃあさっきのは何ですか!? 怪力にも程がありますよ!!!」 「あれは…ははっ、すごいだろ。 企業秘密ですー」 ははは、といかにもおかしそうな笑い声を 彼女はこの狭い空間に響かせた。 こうなったらもう喋ってくれないだろうな、と何故か確信する。 僕のその考えは、意外にも早くこの現場に現れた。 先程までにぎやかだった雰囲気は 一転して息を潜め、静寂の中へと身を沈めていったのだった。 *** 「おいトマ、無線を繋げ」 「? 殿でございますか」 ティムキャンピーの映像記録機能でアクマの情報を一見した後、トマにそう言うと、彼は受話器を俺に差し出した。 あのモヤシ 厄介なモン取られやがって… と 内心毒づきながら、が出るのを待つ。 あいつのことだからアクマの能力には もう気付いているかもしれないが、たまに見当違いなことを考えるやつだから、伝えることは伝えておいたほうがいいと考えたのだ。 ガチャ、と通信をとる音が鳴る。 出るのが遅ェ、と毒づくつもりだったが、受話器から流れた声音は彼女のそれではなかった。 『 おい…れ、班長の…』 最初に響いたのは、ざざっ、という不快音のノイズだ。 その音に思わず顔を顰める。 「 …あ?」 『お? あ、ああ。なんだ神田か』 「…おい、…なんでてめェが出てくんだよ」 『俺に当たらないでくれよ。 班長のヤツ、アンジェラを置いてったみたいだな』 「…チッ、あの阿呆…」 ガチャン、と乱暴に受話器を置く。 なんで任務だってのにゴーレム置いてってんだあの阿呆は! …今日はレグルスを発動できていたし、もともとアイツ生命力は無駄に強いから くたばってはいないだろうが…。 (…だが)わかってはいても 悪い想像ばかりが脳内を過ぎる。(あいつは…、)自然と眉間には皺が寄ってきた。 「(…クソ)」 「ウォーカー殿と殿を 探すべきでございました」 しゅん、とした様子でトマが喋る。 「もし ウォーカー殿たちが生きていても 現れたとき本物かどうかわからないです」 「‥それは」 そうだ 「…それは大丈夫だろ モヤシには顔の傷があるし、俺がを間違えるわけが無い」 そうだ、今は任務の最中だ。 どちらにしろあのアクマを片付けなければ、あいつの命も危険に晒されるのだから。 *** 「」 「なに…アレン…」 狭い道を進んで、僕もも息があがってきたころ、また少し眩暈がするような事実が浮かんだかもしれない。 に呼びかけると、彼女の声にも覇気がなかった。(そういえば持久力とかないんだっけ…) 「ど、どうしよう… 迷った」 「 パ…パードゥン?」 「あ"あ"あ"っ やっぱさっきの道 戻ってた方が良かったのかなあ! こんなトコで迷子になってる場合じゃないのに〜〜っ!!」 「( 遠 まわ し に オ レ の 所 為 ! ? )」 「はー… ティムキャンピーがいてくれたらなぁ…」 「( オレはゴーレムより 役 立 た ず って意味かァァァ!!! )」 両者両様の考えで頭を抱える。後ろを振り向くと、が地に頭を擦り付けて長い爪で地面をギリギリ引っかいていた。(物凄く怪しい) 「頭大丈…アイタタダダダ!!」 「 ハァ!? ・・お、ティム、キャンピー…。(歯 が あ る … !!)」 バリバリと、なにか硬いものを突き破るような音がしたかと思うと、手前の壁から金色ゴーレム、ティムキャンピーが抜け出してくる。(噛み砕いて…来てくれたのか?)僕の方向へ飛んできたかと思うと、耳たぶをその歯で噛んで左の道へと引っ張られる。(ていうか耳 千切れる!!) 「 …やらとんだ馬鹿の… な」 「! やった! やっと出口…! (人の声?)」 首を後ろに傾けながら 彼女に向かってそう報告すると、は少し深刻そうに眉をひそめた。(え、嬉しくないんですか?)…? と もう一度名前を呼ぶと、彼女は はっとしたように僕の太腿を叩いて(セクハラ!?)、急かすように叫んだ。 「アレン おまっ…イノセンス発動して思いっきり手ェ伸ばせ!そして出口へ素早く這え! 黒光りするGの如く!」 「(黒光りするG!?) え? どうし …あ、はい!やりますやります!」 理由を聞こうとしたら、彼女は笑顔で 握りこぶしを作って、『早くしろ』と促した。 さっきの変な怪力を使われたらたまらない、と思って手を伸ばすと バン、という衝撃音の後に鋭い痛みが走る。予告もなしに身体を駆け抜けたそれに、思わず顔を顰めた。(理不尽だ…!!) 一体なんなんだ、と痛みの正体を確かめようと出口へ急ぐ。 出口を抜けた先は、居た場所より幾分か明るい通路。 そこには、僕と同じ姿形の“なにか”が立っていた。 「ウォ・・・ウォーカー殿…」 アクマか? と思ったが、どうやら違うようだ。 「キミは…?」 「モヤシ!!」 通路に降り立つと、怒り心頭の様子の神田が僕に向かって叫ぶ。(モヤシじゃないって何回言ったらわかってくれるんだ!) 「どういうつもりだテメェ…!! なんでアクマを庇いやがった!!!」 「 、神田… 僕にはアクマを見分けられる『目』があるんです ‥この人は、アクマじゃない!」 そうは言い切ったものの、そうなるとこれは誰だ。 もういちど、微かな声で 左右反対の僕は 僕の名前を呼んだ。 反対の僕の左頬から目にかけて、切れ目が走っている。 訝しく思い、その裂傷に手を掛けると べりっ、という布を破いたような音がした後 その奥からは違う顔が現れる。 「 トマ!!?」 「 何…っ」 「そっちのトマが アクマだ神田!!!」 僕がそう叫ぶと、それより早く神田の後ろに居たトマ…― の形をしたアクマ ― が、黒髪のエクソシストを軽々と吹き飛ばす。 ドンッ 、と盛大な音を立てて、それは先程の僕のように壁を突き抜けていった。壊された瓦礫がガラガラと音を立てて崩れていく。 「かっ… 神田!!」 その拍子に、神田のイノセンスが僕の足元に勢い良く突き刺さる。彼の手元から離れたそれは、鋭い輝きを失って 鈍い漆黒色へと戻っていった。 「 え? やっぱ神田いんの?」 僕の叫んだ彼の名に、やっと迷路から出てきたらしいが、狭い通路から軽い音を立てて降りてくる。 神田が吹き飛んだことで 依然がらがらと音を立てて崩れていく瓦礫、そして僕の足元に刺さる 漆黒の六幻を一瞥すると、は血相を変えてそれを引き抜いた。 血色に塗れた彼女の目は射抜くように鋭く、また、何かに対して焦っているようにも見受けられる。「小サナ王、発動」 左手で六幻の刀身をゆっくりとなぞりつつ、彼女は呟く。 「…目覚めろ 神の 「ちょ、っと・・・ あなたイノセンス使えないって…!」 「フォーア・リーベ…」 そうは 歌うように言葉を紡ぐと、六幻を下方から横に一振りした。僕の声なんかまるで聞こえていない、とでも言うように、瓦礫の方向へ走り出す。 「っ‥ああ、もう!」 のあとを追いかけると、団服のスワローテールと共に彼女の手からゆらゆらと揺れている六幻に目が行く。 鈍い漆黒の刀は、 いつの間にか 鋭い銀色へと光を戻していた。 神田のピンチに思わずぷっつん!← 08.07.31 一部修正 |