「あれ、。 どうしたんですか?」
「…。 ジェリーさんパフェ! パフェが無いっ…!!」
「あらん、ごめんねくん。 今一緒に作ってるから!」

 直談判しに来た注文口には、アレンと数人の探索部隊しか人がいなかった。「一緒?」「そうそう、この子の分と」「…あ、ああ。 ありがとね、ジェリーさん」納得したように頷いた後、この子、と呼ばれた白髪の少年の方へと振り向く。彼の手には未だ一つもトレーが乗っていなかった。

「…あれ、お前まだもらってな「何だとコラァ!」ヒィ!」

突如聞こえた怒声に、肩を揺らして小さな悲鳴を上げる。(何だってんだ一体!) どきどきと速い心臓に、アレンが向いた方向にオレも注目する。 なんだ、喧嘩か? もっとやれー…って、

「もういっぺん言ってみやがれ! ああっ!?」

(うわあ)(案の定、って感じ?) いなくなった途端に、喧嘩しないでくれ。 軽く呆れた溜息を吐いて、頬を掻く。 あれは、止めに行かなきゃ行けないんだろう、な。 あたりをきょろきょろと見回し、今まで話していた白髪の少年を探すが、彼の姿はオレの周りから忽然と消えていた。(…?) 「アレーン? …って、」居た。 今あいつテレポートしなかったか? いきなり姿が消えたことに疑問を抱きつつも、アレンと神田が睨み合っている方向へ、アレンのみたらし団子を咥えながら走る。

「 …放せよ、モヤシ」
「! …アレンです」
「はっ、1ヶ月でくたばらなかったら覚えてやるよ。」

 会話が段々に聞こえてくる。 モヤシ、という発言を本人の前で実践しているのに思わず笑いそうになったが、なんとか顔を引き締めた。(今度呼んでさしあげなきゃ!) 「ここじゃパタパタ死んでく奴が多いからな。 …コイツら、みたいに」 鼻で嘲る神田の言葉に、思わず眉を顰めてしまった。 エクソシストが1人死ぬのと、探索部隊が1人死ぬのでは、教団にとっての影響がかなり違う。 探索部隊は100人が死んでもエクソシストを護らなければならないし、戦地にて、力を持たない彼らが死ぬのは当然の摂理だ。 (……、) その部分は、ここにいる以上は割り切らねばならない。 だから神田の言い分も少々棘があるが、正論だし、アレンがそれに反論を唱えることも倫理的には正しい。 (結局、本当の答えなんて無いんだから)

「‥そろそろやめよーぜ、野郎共! 喧嘩は、他所で!」

 険悪な雰囲気をあたりに漂わせる、神田とアレンの間に、腕をつっかえ棒のように伸ばして割り入った。「神田も言い過ぎ!」黒曜の瞳に視線の照準を合わせると、彼の目は不機嫌そうに揺らいだ。(なんでオレが?)そう訴えているようだったので、目線を散らばした後、神田の右腕をぽんぽんと軽く叩く。 「間違ってない。でも、…言い過ぎ。 な?」そう諭すように再度言うと、周りの探索部隊が少々ほっとしたような面持ちでこちらを見ているのが分かった。

「おーい!」
「…ん。 リーバー」
「神田、、アレン! 10分でメシ食って、司令室来てくれ!」

 目の下の隈と無精ヒゲが、最近酷くなったよなあ。 寝る暇がないくらいに忙しいと、そういう部分の手入れなんてできないんだろう。 暫し考え事で脳を埋め尽くしていると、リーバーが再度口を開く。「…任務だ!」 緊張感が、またしてもこの食堂に広がった。


***


「ちくしょー」

 置いてかれちゃったぜ! あの後リーバーの隣に居たリナリーに挨拶をしている間に、神田は司令室へと向かっていってしまった。(一人で)よく辿り付けるなあ、といつも思う。 重傷末期なくらい方向音痴なオレにとっては、何年か住んでいるのに未だ辿り付けないときがある。(…ってことは、)神田を追いかけなきゃやばいんじゃあ。「…あ。」一歩踏み出し、思いとどまってもう一度後ろを振り向いた。「そこの君、は、平気…じゃないよなあ」 いやまさか、新米以外で神田に喧嘩を売る探索員が居たのは驚きだ。 苦笑いをしながら頬を掻き、ごろりと転がったでかい図体の元へと歩み寄る。 「泡、吹いちゃって」 こりゃあ完全に伸びてますね。 誰が見ても分かることを呟き、その図体をぐいと持ち上げて椅子の上に寝転がした。 「ねえ、君達」 年齢上は殆ど下、でも、立場で言ったらオレのほうが上なのだ。 ぼうっと突っ立って、こちらの様子を見ていた探索部隊は佇まいを直し、こちらを向いた。

「ここはね、食堂。 仲間の死を哀しむ所じゃないよ。 …気持ちは分かるけど」
「すみません‥」
「場所ならさ、いくつでも用意できるから。 次から気をつけてね。 …むしろ、『次』が無いように」
「はい」
「わかればよし …アレン! お前も飯食って、早く来いな。パフェも食べてくれると助かる!」
「‥わかりました」

 返事をしたアレンに、笑顔で頷く。 「…あ、そうだ、あと」 思い出したように、頬を掻きながらオレは言う。

「神田のこと、あんまり嫌わないであげてね。」

あれでも悪い人じゃ無いから。 その言葉を言うと、誰かに突っ込まれそうな気がしたので出さなかった。 眉を下げて首を傾げると、 「じゃあね」 と腕を振り上げ足早にその場を去る。 (皆の注目が少し痛い) 返却口のゴミ箱に串を捨てて、ごちそうさま、と笑顔で言う。 この行動は『いつも通り』の朝の風景だ。 食べて、お礼を言って、司令室ではなく、療養室に帰る。 それがいつも通りの日常。 「神田!」 小走りでやっと見えた、黒い長身に声をかける。 「…」少しだけ神田は不機嫌なようだ。 問いかけた言葉にも返事が無いので、苦笑いをして、神田の腕に自分のそれを滑り込ませる。

「任務、一緒だといいな」
「知らん」
「…、ま、でもそうなるとアレンも一緒かな? 新入りの子だし」
「…。」
「(わっかりやすいなあ…)」

 眉を心底嫌そうに顰めた彼に、思わず噴出してしまう。 「久しぶりだね」「あ?」 突拍子も無いオレの発言に、神田は少々訝しげにこちらを見る。 絡みついた腕と、コートから、微かに石鹸の良い香りがする。落ち着くなあ。 頬を軽く緩ませ、彼の顔を見上げた。

「司令室まで、2人きりだよ」