くろのきょうだんに、しんいりさんが、やってきました。(わーい パチパチパチ)

リナリーのまえだったけど うん ちょっとはしゃいじゃって

『やあ御機嫌よう、はじめまして!』


そういって 手の甲に ちゅう しました。



 うん



おんなのこ  だと  おもったん、だけど   な。



『ぼく おとこですから』

アレン・ウォーカーという(自称)少年は、そうにっこりと(バックに何かを背負いながら) 言ってのけました。


***

 なんていう、オレの人生の汚点、そしてショッキングな会話から早いものでもう5分が経過した。「おおお男ォ…!?」 頭を抱えて唸る。「 …ありえないありえない」 あの細さにぱっちりとした目元は女の子だと思ったんだけどなあ…っ!

「お前の思考回路のほうがありえねーって」
「黙れよ なに?おまえ、その腫れ物潰して欲しいのか、そーかそーか」

引き攣った笑みでそう脅してやると、門番は怯んだように押し黙った。(実に賢明な判断だね)(まあなに? あとでまた遊びに来ちゃうけど)

「だってさ あれで男って何がなんだか」
くーん、入らないの?」
「入るぅ〜! 待って、リナリー待って!」

囁くような声で門番に愚痴っていたオレだが、リナリーの可愛らしい声に振り向くといつのまにか3人 in 門の中だったので少し焦りつつ猫なで声で小走りをする。 去る間際、門番がぼそりと 「…こんなのが班長で大丈夫なのかよ」 なんて呟いたのを俺が聞き逃すわけもなく、未だに残っている顎のブツブツを、右手のイノセンスで数個ぶっ潰してやった。


***


「ごめんごめん☆ いやーアマデウス5号が寂しそうだったもんで つい…」
「あんまり苛めちゃ可哀想よ?」
「やーだなあ苛めるなんて…」

 自分でもよく名前覚えてたなあ…なんて考えた後、リナリーに向かって笑ってみる。

「もう。 くん、わたしこれからアレンくんに教団内の案内してくるんだけど…」
「! オレも行きた ………わ"ー! …神田ァァァァ! てめっ…!!」

リナリーの言葉に勢い良く挙手をする。 女の子のさりげないお誘いを無碍に断るほど、断ってしまうほど無粋な人間ではないつもりだオレは。 だがしかし、例外と言うものはいつだってあるものだ。 (今の状況で言うとあれだ、) 神田。 彼は突拍子も無く、笑顔のオレの襟元を 猫やそれらにするような仕種で、なんとなしにつまみあげてしまった。


「…! なっ、なんだよっ!( 首 が 絞 ま る …!)」
「 傷が開いた」
馬鹿野郎ォォォォォ!!! だからおまっ…良い度胸だ! 消毒液ぶっかける!」

突然名前を呼んだと思ったらそれですか。 どうやらそれなりに心配していた『万が一』が起きてしまったらしい。(ちょっとちょっと)(この手当てでくんに咎められるのは…) もしかしなくてもオレなんじゃなかろうか。 「バーカ!」 「うっせえ」 今一度、反復するように吐き捨てる。 米神に手を当てて、あーあ。 そんな溜息を軽く零すと、目の前の白髪の少女…ではなく、少年のアレンくんがこちらを見ているのに気がついた。

「…えーっと、アレンくんだっ    きゃああああああああ!!
「変な声出してんじゃねえよ、阿呆女」
「それは今オレも思ったけども! オレは猫じゃない!せめて手! ロマンティックに手を引いて!」

 白衣の襟首を掴んだまま、神田はオレを引き摺るようにして後ろに引っ張った。 突然の引力に心臓が怯えて、血液を巡らすスピードが一気に上昇する。 アレンくんとやらとお話がしたかったんですが。 不満を抱えつつ喚き散らすと、未だに彼の視線が冷たいことに気付く。「(…?)(オ、オレなんかしたっけ)」 いや、心当たりはありすぎるのだけれども。

「 カンダ! …って、名前 でした よ ね‥?」
「…睨むなヨ」

白衣が汚れるなあ、これは。 諦め気味の脳で そんなことを考えていると、先程まで苦笑いをこちらに送っていた『アレンくん』が神田に呼びかける。 呼ばれた神田、はといえば、数秒舌打ちしそうな雰囲気を醸し出した後、眼光を鋭く仕方なさ気に彼を振り向いた。(もうちょっと愛想良くさあ…)(や、それは不気味か)神田だし。

「………」

不機嫌な神田に新米くんはほんの少し怯んでいるようだった。 彼の後ろに控えるリナリーと目が合って、やはり施設案内とやらについていきたいという気持ちが膨れていく。 アレンくんがフとオレの目を見る。 銀灰色が散漫と輝く目に、駄目元で「たすけて!」とヘルプコールを出す、と、アレンは一瞬きょとんとしたように銀灰を見開いた後、ゆったりとした仕種で口元に笑みを描いた。(もしや優しい子!)(やった、そういう子は大歓迎さ!)

 と、思ったら神田に手を 差 し 出 し て ?

「よろしく」 ( に こ や か に !? )

オレを助けてくれるんじゃなかったのか ていうか神田か そうかお主は挨拶がしたかっただけか 馬鹿! 勝手な勘違いをした前言は撤回させていただくことにする。 外見は真っ白なのにこの子はアレか。 腹の中は真っ黒とかいうタイプなのか。なにそれこわい。 そんなことをぐだぐだと、乾いた笑みを浮かべ考えていると、神田がまたもやアレンを一睨みして、口を開くのが見えた。

「呪われてるやつと握手なんか するかよ」

 お 前 も か 

それだけ言うと、神田はもとの方向へ身体を戻して、オレを荷物のように引き摺っていった


***


 ずるりずるりと、療養室までずっと引き摺られそうになっていたオレだったが、ちょっと冷たい雰囲気の神田くんはなんの脈絡も無くオレを 階段の直前で解放してくださった。 「くん、神田に暴力振るわれたー!」「え、班長またなんかしたんですか」「ちょっ…それ前提に考えるの!?」 解放した、と言うより、彼はオレの襟首を掴んでいたわけだから、『落とした』というのも正しいのかもしれない。 ゴツッ、という鈍い音を立てて、突然の開放感に驚き、受身を取れなかったオレが頭を階段にクリティカルヒットさせたのは、当然の顛末だったのだろう。(脳震盪直前!みたいなね)(もうちょっと丁重にさあ…)

「 …んん? ……神田、」
「なんだよ」
「さっき 『傷開いた』 って言ってたの…、オレの聞き間違え?」
「………。」
「 オイィィィィィィィィ! 嘘吐き! 神田の嘘吐き!」
「うるせェ」

がくがくと神田の肩を掴んで揺さぶりたいくらいだ。 団服と包帯を剥ぎ取ったそこは、傷跡さえあるものの 開いている、なんてことはまったくなかった。「あー、もう…」呆れたように呟いた後、髪の毛を掻きあげる。

「ちぇっ」
「いや、班長…そこは喜ばなきゃ駄目でしょう」
「 やあ、くん いたのかね」
「さっきから居ましたが。 あとその喋り方気持ち悪いですよ」
「え、うわあ…君までそういうこと言うのな。 減給ね
「 班長って素敵ですよね、俺いつもはこんなですけど…班長のこと大好きですから!」
「  うん オレ きみのそういうとこすきよ」

 敬われているのか蔑ろにされているのか。 割と不明瞭な扱いを受けることが最近、なかなかにある。 (まあ別にいいんですけど)皆が慣れてきただけだと信じたいね。 ちなみにオレは班長になってから、まだ1年半かそこらだ。天才だと持て囃されることもあるがただ単に自分のイノセンスが治療に特化していただけで、兄も医療班長だったのだから恐らく家柄の問題も大いにあるだけなのだろう。 なんとなしに頬を掻いて、淹れたココアを机において別室に引っ込んでいくくんを見届けた後、珍しく嘘吐きの(いや)(もっと言えば、初めて…かも?)神田を見遣る。 一部始終を呆れたように見ていたらしい彼は、もうきっちりとコートに身を包んでいた。

「え、もう戻るの? ていうか生着替えは!?」
「(生…?)、どうせここにいたら あのモヤシが来るんだろ」
「? モヤ…あ、ああ」

 アレンくんですか。 そういえば先程、リナリーに「カルテ作るから あとで来てね!」と言伝していたのだった。(いや、それにしてもモヤシって…)「神田って結構、可愛い性格してるよね」 立て掛けた六幻を掴んだ神田に、そう声をかけたのは、きっと間違いだったのだろう。 チャキ、という音が至近距離でしたかと思うと、鞘から抜かれた六幻がすぐそばで構えられている。

「うわ、構えるなよ! …恐いから!」

目がマジですよ、神田さーん! 両手をあげながら引き攣った笑みで笑う。 「…チッ」 軽い舌打ちがしたかと思うと、それはなんなく鞘へとしまわれた。 斬る気は毛頭無かったらしい、が、安心の吐息を零したあと神田と目が合うと、彼は少し大袈裟なのではというくらいの溜息をついて、療養室の出口へと向かっていった。 歩幅が広い。 「ちょ、ちょっ待て!」小走りで追いかけてやっと追いつくと、彼の手首をがしりと掴む。

「なに、イライラしてんのさ」
「してねェ」
「 うそ」
「してねェ、っつってんだろ」

驚いたようにこちらを振り向いた神田にそう言う。 認めようとしない。(…こんな普段と様子が違うんだ)(してる、だろう?)頬がなんとなく膨らむ感覚を覚えた。

「してるでしょ。 なんで」
「………っ! お前が、あいつに」
「 …は?」
「――何でもねえ。とにかく今日は部屋に戻る」
「 あ  …か、神田!?」

ぱしりと腕が振り払われて、彼はオレから離れていった。 ドアノブに手を掛けガチャリと回すと、少し乱暴に音を響かせ それを閉める。「(…どーしたんだろ)」 振り払われた手の居所が、寂しい。 右手の平をこちらに向けて、首を一つ傾げる。

「やきもち? また喧嘩したの、くん」
「や、オレもよく…ってええええええ! リ、リリリ、リナリー!」

 突然隣に現れたリナリーに、飛び上がる勢いで驚いてしまった。 ばくばくと怯えっぱなしの心臓を撫で付けて、「あ、アレン連れてきてくれたの?ありがとう」はにかんで言うと、リナリーも「どういたしまして」と照れたように返した。 いや、やっぱりいいね女の子! 可愛いよ、地球の財産だよ! そう思いアレンの方へと顔を向けると、銀灰色の瞳とオレの赤目がバチリと交わる。 って 逸 ら さ れ た !? (少なからずショックなんですけど!)


「ええっと…カルテをさ、作りたいんだ。 座ってもらってもいいかい?」
「あ、はい」
「リナリーもどうぞ」
「ありがとう」

レディファースト! そんな座右の銘がオレには相応しいのかもしれない。 椅子を引いてリナリーを座らせると、別室のくんに「ココア2つ淹れてくれるー?」とお願い(と言う名の指示)を出す。 了解の返事をしっかりと聞いた後、オレもリナリーの隣へ腰を下ろした。